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14.ルヒィナの友人と夫

Author: 月山 歩
last update Last Updated: 2025-08-19 13:35:56

「デニス様、今日もサラ様は素敵でしたわ。」

「それは良かったね。」

今では、サラ様を交えたお茶会を私の邸で開き、その後に彼女と二人で刺繍を楽しむのが、私の日常の一部となっていた。

デニス様は私がサラ様に憧れていることを理解してくれているから、彼女が帰った後、いつもこうしてお話を聞いてくれる。

「今日ね、二人で新しいガーベラの刺繍のデザインを完成させたの。

それをドレスに刺繍して、お揃いにするのよ。

夜会でそれを披露して、ガーベラの刺繍がお揃いであることに、気づく人がいるか試してみるの。

気づく人は刺繍に関心がある人だから、私達の仲間に誘ったらどうかと思って。

そろそろ刺繍仲間を増やしていきたいねって話していたの。

デニス様はどう思う?

みんなに刺繍が好きか聞いて回るより、素敵な方法でしょ。」

「そうだね。

だったら、それに合わせてドレスの生地から二人で選んで、ドレス自体もデザインして作ったらどうだい?」

「そうね、そうすれば、刺繍がより映えるドレスが作れるわ。」

「じゃあ早速、次回サラさんが来る時に合わせてドレス工房を手配しよう。

僕から二人に仲良くなったお祝いにドレスをプレゼントするよ。」

「ありがとう。

それならサラ様に気を遣わせずに誘えるわ。

もう、あなたはどれだけ私を幸せにしてくれるの。

素敵過ぎるわ。」

デニス様は出会ったあの日から変わらず、今でも私が喜ぶことを次々と提案して叶えてくれる。

普通なら、妻が仲の良い友人と過ごせるようにと、ここまで協力してくれる夫はなかなかいないだろう。

「君は、普通の女性は嗜み程度しかできない刺繍を、プロ並みにこなす優れた妻なんだよ。

ところ構わず自慢して歩きたいぐらいさ。」

「まあ、嬉しいわ。

いつも刺繍にばかり夢中になって、あなたに呆れられていると思っていたの。」

「まさか、そんなことはないさ。

君は僕のそばで自由にしてくれるだけでいい。

だって、それが君の幸せなんだろう?」

「ええ、そうよ。」

とっても優しくて、私をいつも喜ばそうと、素敵な言葉と共にくれる人。

あの日、あなたと出会えて本当に良かった。

私は躊躇わず抱きつき、彼に甘える。

デニス様は、結婚を機に、サラ様とお茶会をするためにくつろげる部屋を新しく作ってくれた。

その部屋には友人が多い時用のテーブル、サラ様と二人だけでお茶を飲むテーブル、二人でくつろぎなが
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